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藪の中
4話 検非違使に問われたる媼の物語
藪の中(芥川龍之介の作品)第4話 「検非違使に問われたる媼の物語」を今すぐ読もう!チャット形式小説投稿サイトBookChat
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はい、あの死骸は手前の娘が、片附《かたづ》いた男でございます。が、都のものではございません。

若狭《わかさ》の国府《こくふ》の侍でございます。名は金沢《かなざわ》の武弘、年は二十六歳でございました。

いえ、優しい気立《きだて》でございますから、遺恨《いこん》なぞ受ける筈はございません。

娘でございますか? 娘の名は真砂《まさご》、年は十九歳でございます。

これは男にも劣らぬくらい、勝気の女でございますが、まだ一度も武弘のほかには、男を持った事はございません。

顔は色の浅黒い、左の眼尻《めじり》に黒子《ほくろ》のある、小さい瓜実顔《うりざねがお》でございます。

武弘は昨日《きのう》娘と一しょに、若狭へ立ったのでございますが、こんな事になりますとは、何と云う因果でございましょう。

しかし娘はどうなりましたやら、壻《むこ》の事はあきらめましても、これだけは心配でなりません。

どうかこの姥《うば》が一生のお願いでございますから、たとい草木《くさき》を分けましても、娘の行方《ゆくえ》をお尋ね下さいまし。

何に致せ憎いのは、その多襄丸《たじょうまる》とか何とか申す、盗人《ぬすびと》のやつでございます。

壻ばかりか、娘までも………(跡は泣き入りて言葉なし)