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オツベルと象
2話 第二日曜
オツベルと象(宮沢賢治の作品)第2話 「第二日曜」を今すぐ読もう!チャット形式小説投稿サイトBookChat
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オツベルときたら大したもんだ。それにこの前稲扱小屋で、うまく自分のものにした、象もじっさい大したもんだ。

力も二十馬力もある。第一みかけがまっ白で、牙《きば》はぜんたいきれいな象牙《ぞうげ》でできている。皮も全体、立派で丈夫《じょうぶ》な象皮なのだ。

そしてずいぶんはたらくもんだ。けれどもそんなに稼《かせ》ぐのも、やっぱり主人が偉《えら》いのだ。

オツベル

「おい、お前は時計は要《い》らないか。」

丸太で建てたその象小屋の前に来て、オツベルは琥珀のパイプをくわえ、顔をしかめて斯う訊《き》いた。

白象

「ぼくは時計は要らないよ。」

象がわらって返事した。

オツベル

「まあ持って見ろ、いいもんだ。」

斯う言いながらオツベルは、ブリキでこさえた大きな時計を、象の首からぶらさげた。

白象

「なかなかいいね。」

象も云う。

オツベル

「鎖《くさり》もなくちゃだめだろう。」

オツベルときたら、百キロもある鎖をさ、その前肢にくっつけた。

白象

「うん、なかなか鎖はいいね。」

三あし歩いて象がいう。

オツベル

「靴《くつ》をはいたらどうだろう。」

白象

「ぼくは靴などはかないよ。」

オツベル

「まあはいてみろ、いいもんだ。」

オツベルは顔をしかめながら、赤い張子の大きな靴を、象のうしろのかかとにはめた。

白象

「なかなかいいね。」

象も云う。

オツベル

「靴に飾《かざ》りをつけなくちゃ。」

オツベルはもう大急ぎで、四百キロある分銅を靴の上から、穿《は》め込んだ。

白象

「うん、なかなかいいね。」

象は二あし歩いてみて、さもうれしそうにそう云った。

次の日、ブリキの大きな時計と、やくざな紙の靴とはやぶけ、象は鎖と分銅だけで、大よろこびであるいて居《お》った。

オツベル

「済まないが税金も高いから、今日はすこうし、川から水を汲《く》んでくれ。」

オツベルは両手をうしろで組んで、顔をしかめて象に云う。

白象

「ああ、ぼく水を汲んで来よう。もう何ばいでも汲んでやるよ。」

象は眼を細くしてよろこんで、そのひるすぎに五十だけ、川から水を汲んで来た。そして菜っ葉の畑にかけた。

夕方象は小屋に居て、十|把《ぱ》の藁《わら》をたべながら、西の三日の月を見て、

白象

「ああ、稼《かせ》ぐのは愉快《ゆかい》だねえ、さっぱりするねえ」

と云っていた。

オツベル

「済まないが税金がまたあがる。今日は少うし森から、たきぎを運んでくれ」

オツベルは房《ふさ》のついた赤い帽子《ぼうし》をかぶり、両手をかくしにつっ込んで、次の日象にそう言った。

白象

「ああ、ぼくたきぎを持って来よう。いい天気だねえ。ぼくはぜんたい森へ行くのは大すきなんだ」

象はわらってこう言った。

オツベルは少しぎょっとして、パイプを手からあぶなく落としそうにしたがもうあのときは、象がいかにも愉快なふうで、ゆっくりあるきだしたので、また安心してパイプをくわえ、小さな咳《せき》を一つして、百姓どもの仕事の方を見に行った。

そのひるすぎの半日に、象は九百把たきぎを運び、眼を細くしてよろこんだ。

晩方象は小屋に居て、八把の藁をたべながら、西の四日の月を見て

白象

「ああ、せいせいした。サンタマリア」

と斯《こ》うひとりごとしたそうだ。

その次の日だ、

オツベル

「済まないが、税金が五倍になった、今日は少うし鍛冶場《かじば》へ行って、炭火を吹《ふ》いてくれないか」

白象

「ああ、吹いてやろう。本気でやったら、ぼく、もう、息で、石もなげとばせるよ」

オツベルはまたどきっとしたが、気を落ち付けてわらっていた。

象はのそのそ鍛冶場へ行って、べたんと肢を折って座《すわ》り、ふいごの代りに半日炭を吹いたのだ。

その晩、象は象小屋で、七|把《わ》の藁をたべながら、空の五日の月を見て

白象

「ああ、つかれたな、うれしいな、サンタマリア」

と斯う言った。

どうだ、そうして次の日から、象は朝からかせぐのだ。藁も昨日はただ五把だ。よくまあ、五把の藁などで、あんな力がでるもんだ。

じっさい象はけいざいだよ。それというのもオツベルが、頭がよくてえらいためだ。オツベルときたら大したもんさ。