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牛をつないだ椿の木
6話 六
牛をつないだ椿の木(新美南吉の作品)第6話 「六」を今すぐ読もう!チャット形式小説投稿サイトBookChat
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しんたのむねから打《う》ちあげられて、少《すこ》しくもった空《そら》で花火《はなび》がはじけたのは、春《はる》も末《すえ》に近《ちか》いころの昼《ひる》でした。

村《むら》の方《ほう》から行列《ぎょうれつ》が、しんたのむねを下《お》りて来《き》ました。

行列《ぎょうれつ》の先頭《せんとう》には黒《くろ》い服《ふく》、黒《くろ》と黄《き》の帽子《ぼうし》をかむった兵士《へいし》が一人《ひとり》いました。

それが海蔵《かいぞう》さんでありました。

しんたのむねを下《お》りたところに、かたがわには椿《つばき》の木《き》がありました。

今《いま》花《はな》は散《ち》って、浅緑《あさみどり》の柔《やわ》らかい若葉《わかば》になっていました。

もういっぽうには、崖《がけ》をすこしえぐりとって、そこに新《あたら》しい井戸《いど》ができていました。

そこまで来《く》ると、行列《ぎょうれつ》がとまってしまいました。先頭《せんとう》の海蔵《かいぞう》さんがとまったからです。

学校《がっこう》かえりの小《ちい》さい子供《こども》が二人《ふたり》、井戸《いど》から水《みず》を汲《く》んで、のどをならしながら、美《うつく》しい水《みず》をのんでいました。

海蔵《かいぞう》さんは、それをにこにこしながら見《み》ていました。

海蔵

「おれも、いっぱいのんで行《い》こうか。」

子供《こども》たちがすむと、海蔵《かいぞう》さんはそういって、井戸《いど》のところへ行《い》きました。

中《なか》をのぞくと、新《あたら》しい井戸《いど》に、新《あたら》しい清水《しみず》がゆたかに湧《わ》いていました。

ちょうど、そのように、海蔵《かいぞう》さんの心《こころ》の中《なか》にも、よろこびが湧《わ》いていました。

海蔵《かいぞう》さんは、汲《く》んでうまそうにのみました。

海蔵

「わしはもう、思《おも》いのこすことはないがや。こんな小《ちい》さな仕事《しごと》だが、人《ひと》のためになることを残《のこ》すことができたからのオ。」

と、海蔵《かいぞう》さんは誰《だれ》でも、とっつかまえていいたい気持《きも》ちでした。

しかし、そんなことはいわないで、ただにこにこしながら、町《まち》の方《ほう》へ坂《さか》をのぼって行《い》きました。

日本《にっぽん》とロシヤが、海《うみ》の向《む》こうでたたかいをはじめていました。

海蔵《かいぞう》さんは海《うみ》をわたって、そのたたかいの中《なか》にはいって行《い》くのでありました。